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千葉日本大学第一中学・高等学校のトピックスページ。
今年は、桜も藤も薔薇も早くて、朝刊によると牡丹も咲き始めたとか。急に暑くなると身体が汗を上手に出すことにまだ慣れていなくて、熱が内にこもってしまう危険があるらしいですね。皆さん、体調はいかがですか?
昨日、遠藤周作著『王妃マリー・アントワネット』〈(上)[913エ1]、(下)[913エ2] 新潮文庫〉を読了したのですが、今日になってもまだ余韻が続いていて、気づくと様々な登場人物に思いを馳せてしまっています。気持ちが持っていかれたままになっていますので、次に読む本を決めようと思っても決められず、他の本を手に取っても読もうという気になれないのです。最近にしては珍しく重症です。
世界史でまだ習っていない皆さんも、マリー・アントワネットの名を聞いたことはあるかもしれませんね。どんなイメージを持っていますか?「フランスのルイ16世の王妃」「フランス革命」「贅沢」「ファッションリーダー」「ギロチン」など、いろいろなキーワードが思い浮かぶと思います。フランス革命の時代について学んだ皆さんはさらに知識を得ていることでしょう。私も世界史を学びましたし、関連図書も読みました。大人になってからは、映画や舞台も観ました。ひととおり知っているつもりでした。図書館の4月展示で、「遠藤周作生誕100年」を展開していますが、展示をするにあたって、「高校時代に『沈黙』は読んだけれど、恥ずかしながら他の作品は読んでいなかったなぁ・・・えっ?『王妃マリー・アントワネット』?遠藤周作ってこんな作品も書いていたっけ?」という感じで読みました。その結果が、これ。
「小説って、すごい!」文字が印刷された、この紙の束が、こんなに力を持っていることへの新たな驚きと、文字を読んで、頭も心も捉えられてしまう人間の能力への賛歌が響き渡りました。遠藤周作の筆力は、人を物語の世界に引きずり込んでしまう、そんなとてつもない力があると思いました。
「小説にそんな力がある?」「歴史書を読んで史実がわかればいいのでは?」「フィクションが混ざっている小説をわざわざ読む必要ある?」と思う人もいることでしょう。実際にそう言う人に何人も出会ってきました。もちろん、教科書で学ぶことは本筋ですし、ノンフィクションは素晴らしいです。否定はしません。大事です。でも、その上でやっぱり言います。「小説はすごい!」
物語は、マリー・アントワネットがオーストリアからフランスの皇太子妃として迎えられた14歳の時から、フランス革命を経て37歳で亡くなるまでが描かれています。ヴェルサイユ宮殿で繰り広げられる皇族と貴族たちの権謀術数が張り巡らされた豪奢な暮らしの中で、美しく上品で優雅であることをモットーとしたマリー・アントワネット。一方で、貧困にあえぐ平民、マルグリットという人物が登場します。架空の人物ですが、彼女の眼を通して当時のフランスを重層的に描き、多様な視点を与えてくれています。また、詐欺師カリオストロ博士やサド侯爵などが、生き生きとしたアクセントになり、面白いです。修道女アニエスの心の動きは、信仰とは何かを深く考えさせるもので、遠藤周作らしさがあらわれていると思います。
テーマは、「善とは何か?」「正義とは?」「信仰とは?」「生きるとは?」「死とは?」「愛とは?」「信頼とは?」・・・などなど、重く深く、重なり合いながら何度も何度も波のように押し寄せてきます。登場人物一人一人の立場に立って、彼らの気持ちに寄り添い、もし自分がその立場だったら? もし、歴史の歯車が掛け違っていたらどうなっていたのか? 「もし」を考え始めると深みにはまっていきますね。
高校生時代、なぜ私はこの本を読んでいなかったのかと残念です。もし読んでいたら、きっと今とは違う感想を持っていたはず、そして今これが再読ならば、また違った感想になっていたはず・・・と思います。
いい小説に出合えました。読んでよかった、読書って楽しいなぁ!